作品創りについて


 私が描いている絵は、直接人間は描いていませんが“人類”というものを意識して生み出しています。
 現在世界に目を向け歴史を辿れば、残念ながら人類から争いがなくなることはないのだろうと心の隅ではわかっています。しかし奇跡的にこの地球に生まれ、こうして生きている命そのものは唯一無二のかけがえのないものにもかかわらず、理不尽な争いによって幾多の命が奪われ尊厳なく葬られ続けていることに衝撃を受け心が痛みます。今自分がいる幸福な日常から、その真逆の立場にいる人々の苦しみは到底計り知れるものではありません。ただ祈ることしかできないもどかしさの中、家があり家族がいて食卓を囲み暖かい布団で眠るという当たり前のように過ごしている日常がどんなに幸せなことかと気づかされます。

 人類とはいったい何だろう。何のために存在するのだろうとよく考えます。答えがわからないまま、叡智と愚かさを併せ持つ私たち人間の様々なドラマを、時には蔑み、憐み、尊び、慈しみ、愛しく思います。多くの人間は、短い一生をけなげに懸命に生きています。他人を愛し他人を思いやり、時には自らの命を顧みず隣人を助けることさえできる使命感や慈しみの心があります。そこで私は人間というものを、地球上での、永い時の積み重ねの上での暮らしを描こうと思いました。そして生きていることの一つの象徴として‘家’をモチーフにして連なる民家や町を描いています。どんな願いや祈りも空虚なきれいごとのように思われるかもしれませんが、それでもこの世に生まれた全ての人が手を取り合い平穏な暮らしを送っていけるよう願いを込めています。また近年は、地層をモチーフにした絵を多く描いています。地層の縞模様の美しさに魅せられ、それが積み重ねられてきた地球の歴史を記録していることに更に感動します。線と線の間には一つの時代があり、その時代に生きた生命が化石となり眠っています。地層の一番上には常に現代があり、そこに町や民家などの人類の営みを描き、命とは永い時の流れの中のほんの一瞬だけの短く貴重なものであることを表しています。

 そして山の絵ですが、山や自然は悠久の時の中で地球が創りだした神秘と荘厳の芸術でありその美しい迫力に感動して描いています。また大地の上では人間も蟻も万物は皆同じ奇跡の命であることを感じさせてくれる雄大な力に惹かれます。実際に山に登り、その険しさと大自然から受ける畏怖、また地球のエネルギーを感じながら感動を心に焼き付け表現に繋げています。

 その他の創作作品は、欧州の古い都市などへ行きスケッチを重ねて現地の暮らしの匂いを記憶しています。そういった“現場”では視覚的な情報だけでなく経験や体感することでドラマや図が生まれてテーマへと結びつきます。“あまりにも大きい地球、宇宙、時間、その中に生きる小さく儚い命の尊さ美しさ”を単なる空想画にならないよう臨場感を大切に、体感した思いを自ら再構築した図の中に表現していきたいと思っております。



 

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